妄想書き溜め用。
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其の日、此の人の子は一番の友だった猫を殺された。日頃の嫌がらせに物足り無くなった子供が、其の一番の宝物を壊すことに更なる悦を見出したのだ。猫を亡くしたと悟った瞬間、人の子の顔に颯と浮かんだ子供を喜ばす為の驚きと悲しみは、次に凍てつく様な憎悪へ変貌し、遂に生まれて初めて其の拳で子供の鼻面を殴りつけたのだった。
倒れた子供の周りには続々と大人が集い寄せた。やれ止血だ、やれ介抱だと騒ぐ合間に、子供の大泣きと大人の怒責が混じった。人の子の腹は居る筈もなく、子供の鼻から垂れる鮮血の道筋を鋭い眼差しで追いながら、腿の直ぐ横に最う一つ拳を握り緊めて震えて居た。と、子供が片手に掴んでいた何物かがぱっと宙を舞う。柔らかさの失せた音を立てて地面に落ちた其れに人の子は弾かれた様に駆け寄った。暗色の染みに鼻を突く匂いの、じとりと濡れた麻袋。両の手に伝わる冷たい感触が、子供を殴った憎悪を再び胸の激しい痛みへと引き戻していく。
俄かに降りてきた大きな影に人の子が頭を上げると、何時の間にか其処には父母が静かに聳え立って居た。涼しさを帯び始めた夕風がさわさわと影の端を揺らしても、其の中に浮かぶ四つの白い眼は微塵も動かず人の子を見下ろした。
どうして殴ったりしたの、其の口は一体何の為に付いているの?
いってもわかってもらえなかった。やめてって、なんどもなんども、いったのに…
其れはあなたの言葉が足りなかったからでしょう。だからと言って暴力なんて以っての外!
どうしておこるの?いままであのこに、いっぱいひどいことされたのに、いっぱいがまんして、ほんのちょっとやりかえしただけで…
―――ばしん、と左頬に熱が走った。
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―――Clink. A paper-covered lamp rolls over and its oil leaks out, the flame breaking free to revenge the white paper cage which had ever bound him. The floor, walls, roof, all of them soon get fire as well as turn brawn, and wooden pillars resign themselves to stand to give a way for the questing revenger. Smell of scorching and black smoke are gradually fulling there.
Help
Burn them all up. Up to the end, up to my end. Ruin everything, in this redness.
Help, please
A pair of feet continues on forward.
前略、クラスメイトのS君へ。
お元気でしょうか。僕はとても元気です。
君の「自殺しそうな顔してるね」という言葉のお蔭で
僕は死ねなくなりました。
小さな教室の片隅、誰のものでもない机がひっそりと置かれていた。
小さな教室の片隅、誰のものでもない机がひっそりと置かれていた。
いや、誰かのものではあるらしいが、誰もその所有者を知らないのだ。
数が余っている、と物置に仕舞えど、他クラスに譲れど、
その机は必ずその場所へ戻ってくる。
その机は必ずその場所へ戻ってくる。
ここにもいますよ、名簿にあるでしょう、と言わんばかりに。
2-A 榧崎かをる
名前はあれど、誰も姿を知らない。
毎年この教室の名簿に、必ずその名前と座席の位置は書き込まれているのに。
誰も知らない。しかし誰も気にしない。
気が向いた誰かがおふざけでやっているうち、
何となく守り継がれてしまった学校の伝統みたいなもの。
何となく守り継がれてしまった学校の伝統みたいなもの。
机とその主の存在はその程度であった。
榧崎は椅子に座り、何を見るわけもなく、前を向いていた。
どこからか声がした。自殺しそうな顔してるね、と。
いつの記憶だろう。あの笑う声が聞こえる。
自殺しそうな顔。自殺しそうな顔。輪唱は続く。
そのうち声は重なり、ぼやけた不協和音に成り果てても、鳴り止まない。
いつまでも榧崎の命を生に縛りつけ、殺すことを許さない。
死ねない。終われない。自分を終えることは許されない。
誰とも知らぬ自殺に世間は嘆き、その者の意思の弱さを責め、
時に嘲笑い、時に脚色を加えた悲劇をこしらえる。
時に嘲笑い、時に脚色を加えた悲劇をこしらえる。
けれど、生きていても誰も褒めはしない。
当然は見過ごされる。呼吸し続ける努力は報われない。
こんなに必死なのに。
意地を張ったばかりに、死ねずに生き続けてしまったことは、
榧崎にとっては報われぬ不幸だった。
榧崎にとっては報われぬ不幸だった。
生きていても誰かを見返せるわけではない。他人の生など皆無関心だ。
もう死んでしまいたい。終わらせたい。
けれどあの笑い声が聞こえる……
君のかけてくれた言葉のお蔭で、僕は生き永らえました。
君の言葉が包丁を止め、車を跳ね返し、滝壺に救いの手を伸べました。
馬鹿なことをと思うでしょう。
言葉ごとき気にして。死んでしまえば楽なのに。と。
僕も同感です。虚栄心というのは実にくだらない。
なのに逆らうことが出来なかった。
僕は負けん気が無駄に強かったので。
ですが、君がこの世を去った今、
僕の自死を笑うものはもういないのですね。
僕の自死を笑うものはもういないのですね。
ある日、教室の片隅の机が消えた。
その代わりに、そこにはくたびれた上履きが転がっていた。
思い入れもなく忘れ残された、亡霊のようなボロ靴が、そこに。
2-A 佐武茂
踵の潰れたその靴は、誰のものでもなかった。
名前に聞き覚えがあるという生徒は何人かいた。
どこかで聞いた、どこかで見た、しかしどうでもいい名前だった。
ゴミ箱に上履きが捨てられて後、榧崎の机は、
事切れたように、二度と現れなかった。
虚栄
事切れたように、二度と現れなかった。
虚栄
その鳥かごの中には、一羽のカナリアがいた。
彼女は飛び去ることは出来ないが、歌が好きだった。
彼女は家族や友人には会えないが、いつもかごの傍に一人の少年がいた。
何よりも、彼女は飼い主のその少年が大好きだった。
チョキ、チョキ
彼女は種蒔神だ。
チョキ、チョキ
人間の心に種を植え付ける神様だ。
チョキ、チョキン
彼女の蒔く種はやがて成長し、伸びた茎はそいつが生きている世界と強く結び付く。
チョキ、チョキ
絡まる茎は生きる事への執着の証という訳だ。
ジョキ―――
「大分減ったな。種蒔きはもうしないのか?」
女神様は俺の呟きに鋏の刃を閉じたまま、しばらくは良いでしょう、と答えた。
机の上にあったのは花の生けられた1つの器。
始め見たときは溢れ返るほど大量の花々が咲いていたのに、
みるみるうちにその数は減り、頭を切られた緑の茎が虚しく天を仰いでいた。
「どちらにせよ、あまり沢山あっても意味がありません。そうでしょう?」
神様が器の中を見回した後、チョキ、とまた音が響き始める。
鋏を扱う手は白く、動きは軽やかなのに、
茎の千切れる音はその清廉さに反比例するように聞き苦しい。
それは俺がその花々の"意味"を知っているからだろうか。
「人間に生きることの希望を教え、それを進んで与えた神が、その良い様……か。」
「醜い花達とはいえ、切り落とすのは辛いものですね。」
そう言いながらも神様は手を止めない。青々しい茎がまた増えていく―――
『人間は賢くなりすぎてしまいました。』
神様がそう言ったのはつい先日。水やりを止めたのはもっと前だったが、もう遅かった。
器の中ではひどく醜い色形の花が周りの花々を枯らし、あちらこちらに咲いていた。
『生きることに執心し過ぎるあまり、美しく生きられなくなってしまったのですね。』
神様はじっと、醜い花達の中で必死に咲き続く一輪の鮮やかな花を見つめる。
だがしばらくの後、その花は力尽きたように茶色くなり、枯れて器の底にうなだれた。
その瞬間、周りの花達の茎がうねるように動き、養分を取り込もうとする。
奪い合うように花々はもつれあい、枯れた花の花弁も、茎も、引き千切り喰らい付いた。
一部始終を見終えても、神様は瞬きを忘れたように器を見入っていた。
哀れみも怒りもなく、じっと見つめていた。
『可哀想なものですね。』
やがて神様は、静かに銀の鋏を取り出した―――
醜い花は日に日に数を増す。それでも神様は根気良く花を切り落とし続ける。
ある時は醜い花を。ある時は鮮やかな花を。
小さい花を。芳しい花を。何の取り柄もない花を。
器の中はもう、ほとんどが緑の茎だけになってしまっている。
その努力が報われているのか否か、俺には分からない。
「醜くとも他の花の養分を奪い取り、なお生き長らえようとするその根性、天晴です。」
「器の世界の植物なら、養分不足なだけだけどな。…もう根っこから抜いちまえよ。」
「貴方は私のもとで何を学んだのですか。簡単に撲滅出来るなら苦労はありませんよ。」
簡単に切れる癖に。そう続けようとしてやめた。
鋏でそのまま俺の花までちょん切られそうだ。
「…面倒臭え。」
「貴方に代わる頃には楽になっていますよ。それまでにこの器の世話を覚えなさい。」
「面倒臭え。」
そう言って俺は障子戸に手をかけた。そして部屋を出る間際、そっと後ろを振り返る。
そこにはやはり、無表情で自分の蒔いた花を切り続ける栽培者と、
主人に呆れられた無数の花の死骸が散らばるままだった。
花苅神
どうにかしてみろよ、俺が器を床にぶちまけるまでにさ。